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以前の記事で記載した、深センの観察会に参加してきたので、そこで見てきたことを整理します。
去年(2017年)の4月に初めて深センを訪問したので、ほぼちょうど1年後の訪問でした。
前回訪問したのは、Seeed、Jenesis Holdings、Shenzhen Open Innovation Lab、HAXなどでしたが、今回はスタートアップおよびリアルな工場を回れたところが良い点であり、またオーガナイザーの高須さんや参加者の方それぞれの視点での説明や質問、感想などがインプットになるところも個別に行く場合と比べ、非常によかったです。
<サマリー>
1. 深センではプロセスイノベーションだけでなくプロダクトイノベーションも起きている
2. プロダクトイノベーションといっても、全く新しいマーケットを作っているわけではなく、兆しが見えているマーケットに対してものすごいスピード(Shenzhen Speed)で実装をしているところがすごいところ
3. 2を可能にする様々な制度、設備が存在する。
<訪問先概要>
深セン博物館でとった写真に今回の訪問先をマッピングするとこんな位置関係です。
左上の深セン空港から、右の方の華強北まで、地下鉄で40分程度の距離です。

Seeed Studio (AMC: Agile Manufacturing Center)
Seeed Studioの中でも、小ロット(1k以下)のオーダーに対応するAMCの工程を見学。
タブレットによる工程管理システムが最近導入されたようです。
藤岡さんが経営されている製造受託の企業。組み立て工程、検査工程を見学。
Factory Tour(板金加工、金型・射出成型)
深セン中心部から車で30分ほどの深セン空港の近くにある工場をいくつか見学。
Insta 360(Shenzhen Arashi Vision Co., Ltd)@宝安区(スタートアップ集積地)
360度カメラ(ローエンドからハイエンドまで)
CES 2017 Innovation Awards
https://www.youtube.com/watch?v=lrqD-NNBMWk
現在27歳のCEOが南京大学在学中の2014年に創業。すでに従業員数200人で年間売上30億円。
教育用(および産業用)のロボットアームや多機能産業機械(3D printer + CNC Carving + Laser Engraving)
CES 2018 Innovation Awards
https://www.youtube.com/watch?v=5Vjw-cAX3gQ
2012年に創業し、現在150名規模、うちエンジニアは50人以上
シドニー工科大学などの大学が取引先として数量ベースで多くを占める。
Shenzhen Cityeasy Technology Co.,Ltd
マンディーというペッパーのような接客ロボットやロボホンのようなミニロボット。
マンディーだけで累計3,000台出荷済みで、1台100万円程度ということなので、これだけで30億円。
STEAM教育用のキット。
360度 + 3Dカメラで、主に業務用のハイエンド製品。
CES 2018 Innovation Awards
https://www.youtube.com/watch?v=SXK4gxq4Slk
ハードウェアに特化したアクセラレーターで、SOSVというVC傘下のプラグラムの一つ。
この数年でBtoCからBtoBの割合をかなり増やしてきているらしく、IoTハードウェアのマネタイズの流れを踏まえるとそれはそうだろうなという印象。
M5Stack @HAX
HAXに入居している、M5Stackというマイコンモジュールを開発している企業。
1. 深センではプロセスイノベーションだけでなくプロダクトイノベーションも起きている
今回、Insta 360やKandao、Dobotなどを回れた結果として、前回からの訪問でアップデートしたのはこのことでした。
プロセスイノベーションについては、
・藤岡さんの本に書かれているような「白牌/貼牌」の仕組みであったり、
・SZOIL(Shenzhen Open Innovation Lab)が担っているような「デザインハウス」の機能であったり、
・華強北で毎週出ている「今週コモディティ化されたものリスト」(以下写真のチラシ)
のようなものと、(段々中心部分から離れてきているとはいえ)地理的に工場群が車で數十分の距離に集積している構造含めて、前回の訪問にて認識できたことでした。

ただ、今回の訪問を通し、プロセスイノベーションだけでなく、
中国で生まれ、USや香港の大学を出て起業した人が、ハイエンドの製品を設計開発し、その場所として深センを選ぶようになったことで、完成度の高い製品を低コストで量産する、という最強の構造が出てきているのかな、ということを感じました。
しかも、それがいわゆる「BtoCのニッチマーケットをターゲットに、クラウドファンディングで数千万円集めて大成功しました」、みたいなレベルではなく、創業して数年の企業が年商数十億円規模に成長している、というのが、ハードウェアの世界で、実際に深センで起きています。
「TencentやHuawei、DJIのような超巨大企業」でもなく、「クラウドファンディングで数千万円調達したような規模のハードウェアスタートアップ」でもなく、「まだまだ成長段階であるにも関わらず、すでに年間数十億円規模になっている企業」をみれたことがよかったです。
それらの創業者は、コンピュータサイエンスも当然多いと思いますが、Kandaoのように基礎科学(KandaoのCEOは量子物理学)を大学で専攻していたような方が起業しているということも印象的で、
2017年に出願された国際特許の数で中国が日本を抜いて2位になったというのが話題になっていますが、特許という企業の持つ"技術"を測定する指標の裏に、それらがどの程度"科学"に紐づいているかという"サイエンスリンケージ"(一般的には特許が参照している論文の数で測定される)も高い企業が中国で生まれてきているということかもしれません(定量的な検証はできてません)。
グローバルで特許の分析をする際に、これまではデータソースの問題から中国を対象外として分析することもあったのですが、これからは中国を含めないと全く意味のない分析になってしまいました。
2. プロダクトイノベーションといっても、全く新しいマーケットを作っているわけではなく、兆しが見えているマーケットに対してものすごいスピード(Shenzhen Speed)で実装をしているところがすごいところ
スピードが極めて重要な要素だと感じました。
今回回ったKandaoやInsta 360も、それらと比較するとややフォロワー的企業に見えるCityEasyも、製品としての完成度が極めて高いというのが印象的で、あのような製品を日本企業が作れない訳ではないと思うのですが、ロボティクスや画像処理なんかはとにかく使えそうな手法が日々次から次に出てくる中で、相当な手数がないとあそこまでの完成度には到達できないと思います。
今回みた企業のように、創業して数年にも関わらず従業員を数百人規模に拡大する、というようなやり方を取らないと実現できないものだと感じました。
マーケット自体は、「既存で大きいもの」ではなかったとはいえ、「これまで全くなかったマーケット」ではないはずであり、そのマーケットに対して、使えるシーズ(技術)が毎日のように出現している中でいかにキャッチアップして実装し、製品化していくか、というスピードが最も重要な要因に感じます。
"Shenzhen Speed"というのは、元々は経済特区としての動きが始まった深センで、1982年に以下の建物を建設する際に使われたスローガンで、建物の建設速度を表現する言葉として使われていましたが、今では深センでの全般的な経済発展、企業成長を表現する言葉としても使われているようです。



ただ、これを日本企業ができるのか、ということを考えたときに、労働力と資本の問題というか、
労働力はできることの制約がある一方で、資本は効率的に回せるので、
大企業としては投資会社的な動きをするしか難しいんじゃないかという感じもします。
(実際360度カメラに数百人のリソースを当てるということは既存の大企業の中ではできないでしょうし。)
今回のオーガナイザーである高須さんも「選択と集中は罪」という記事を出されていましたが、それはあくまで投資する側のスタンスであって、事業をやっている側からすると、insta360なんかは「選択と集中」の典型です。
(実際に、この記事で、「大手にとって360度カメラは一つのジャンルにしか過ぎないけれど、僕らはその分野に全エネルギーを投入し、人々の思い出を残すベストな製品を生み出していく。」というように答えています)
大企業CVCのあり方として、既存のブランドを持ち、販売チャネルも持っている、ということを強みとしたVCであり、本業とのシナジーとかはそこまで考慮せずに、数百億円規模のマーケットを取りにスタートアップ投資をしていく、というのが考えられる方向性だと思います。
本業のシナジーは、製品レベルではなく部品ですかね。今回見たところも光学系センサーは日本企業のものを使っているという話を聞いています。
3. 2を可能にする様々な制度、設備が存在する。
南山周辺に産業基地があり、Tencentの新HQが上から見えているような感じです。


この一帯ではVCやインキュベーター、銀行、法律専門家なども同居しており、カフェで日常的にピッチが行われており、効率的にお金が循環しています。
一般的な都市経済学で言われるように、経済発展とともに、中心部から製造拠点や生産地は、それぞれの輸送コストに反比例する形で遠くに離れていき、都市中心部はより付加価値の高い業種が占めるようになりますので、このような産業基地も今後別の場所でも積極的に開発が進んでいるようです。ここまで高速に経済発展している都市はあまりなさそうなので、都市経済学としても良い題材になってそうで、今度サーベイしてみたいと思います。
また、海外からの人材誘致策として、孔雀計画(Peacock Plan)を実施している、ということもこの会の中で教えていただきました。いくつか条件があり、金額も年によって変わるようですが、現時点での条件の一つとして、それなりの大学で博士号をとって深センで働くと、5,000万円程度もらえる、という制度のようです。孔雀、私も狙いたいと思います・・・!
最後に感想。
中国、WeChat Pay使えて現金不要で超便利、みたいな話をすごくよく聞きますが、
日本で都内近辺にいる分にはSUICAで支払いできないところほとんどないし、現金使わなきゃいけないシーンってほぼ日常でないので、個人的にはそこまでWeChatPay使えるから万歳、みたいなものは感じませんでした。
あと水回り、特にトイレに関しては日本は本当に天国です。現金での支払いよりも綺麗なトイレの方が生活する上で遥かに大事。
あとは構造的なものを考えないといけなくて、
WeChat Payがあそこまで普及しているのは、導入する店舗への手数料がほぼないはずであることと、
そもそも政府としてBlack Moneyが多すぎるために高額紙幣の取り扱いをやめたいという意向が強い(インドのモバイル決済推進も同様ですが)ということが大きいので、モバイル決済を進める経済的なインセンティブが日本には他国と比べて低いということは理解しないといけないと思います。
(これはIoT関連のサービスも同様で、目に見えるサービスと、マネタイズのモデルというのは離れているケースが多いので、それに対してユーザーのベネフィットだけで議論するのはあまり意味がない)
この観察会については、
できれば、前回自分で訪問するより前に参加できていたら、より効率的だっただろうなと思います。
全てのアレンジをお任せでやっていただけるので、すごく楽なのですが、自分で打ち合わせを仕切って、どう着地するか、というハラハラしたものがどうしても欠如してしまうので、議論も当然数人でいくのと比べると深くはできなく、これは個人的な反省点でもあります。
明確に目的を持っている方は、何のコネクションがなくてもアポ取れると思うので(前回自分が訪問した際はそうでした)、観察会ではなくても、自分で商談に行ってしまうのが良いと思います。
ただ、コミュニティー全体として持っている知見・経験というのは、非常に貴重なので、それがこの観察会で得た最もよかったことでした。
大変お世話になりました。
参考
前提知識
観察会関係
Why are we still using cash (Freakonomics Radio):インド、スウェーデンあたりのモバイル決済についての話です。
Peacock Plan(孔雀計画)
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