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特集記事

イノベーターのジレンマの経済学的解明

June 4, 2018

しばらく前に表題の書籍が発売されると聞いて、ずっと楽しみにしていたのですが、

ついに発売になりましたので早速読みました。

 

Link : イノベーターのジレンマの経済的解明

 

イェール大学の経済学者である伊神さんが書かれた本で、この本の元になっている研究、

Igami, M. 2017. Estimating the innovator's dilemma: Structural analysis of creative destruction in the hard disk drive industry, 1981-1998. Journal of Political Economy. 125, 3 (2017), 798–847.

 

も同時に読みましたので、内容や感想をまとめたいと思います。

紺色斜字は書籍もしくは論文からの引用です)

 

あくまで、この記事は書籍を読んでいることを前提にして記載していますので、

書籍の内容をまとめている類ではなく、書籍の内容に対して一つの意見を記載しているもの、という位置づけでご一読いただけると幸いです。

 

書籍のタイトルの通り、

クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」に対して、定量的なアプローチで立ち向かった研究結果です。

 

この研究が答えようとしている問いに対して、アプローチがわかりやすく、

書籍では、それをさらにわかりやすく伝えており、

なんというかすごく綺麗な構造で素晴らしいと感じました。

 

公開されている比較的マクロなデータ(各年での企業数、HDDタイプごとの各年での価格と出荷数、各企業のアナウンスメントなど)を元にして、こんなにエレガントな研究ができる、というのが、研究を始めた私にとっては刺激的で、大変勉強になりました。

 

以下、「疑問」のセクションに色々書きましたが、データとソースコードも含めて公開していただけると、気になったところを自分で調べてみたりできるのになあと思います。

(経済学ではわかりませんが、疫学などの領域ではデータとソースコードどちらも公開してくれるケースが増えていて、大変役に立っています)

 

大きな感想としては、

「イノベーターのジレンマの経済的解明」という名前になっているものの、異なる仮定(仮説)のもとで説明しており、直接的にクリステンセンの「イノベーターのジレンマ」を定量的に示しているものではないことに少しモヤモヤした印象を受けました。

 

個人的には、本研究が置く以下2つの仮定が成り立たないことがイノベーターのジレンマの構造的な要因になっているように感じるので、その前提で定量的な検証があるとスッキリできたように思います。

(1) Rational expectations regarding the endogenous evolution of market structure

(2) Perfect foresight regarding the exogenous evolution of demand and production costs

 

そして、これらを仮定した本研究のアプローチでは、既存企業は、たとえ有能で戦略的で合理的であったとしても、新旧技術や事業間の「共喰い」がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれないという本書の結論として書かれていることは、言えたことにならないのではないか、というのが最大の疑問です。

<研究の概要>

Why do incumbents delay innovation?

 

なぜ既存プレイヤー(Incumbents)は新参者(New Entrants)に対してイノベーションに出遅れてしまうのか」という問いに対し、

1981年から1998年に起きたHDD業界の5.25インチから3.5インチへの転換期」(クリステンセンの博士論文と同じ)を題材として、

共喰い(Cannibaizatoin)、抜け駆け(Preemption)、能力格差(heterogeneous sunk cost)という3つの観点をモデル化することでそれぞれのインパクトを定量的に示して」います。

 

また、

イノベーターのジレンマ(つまり、なぜ既存プレイヤーが参入者に対して出遅れてしまうのか)についてこれまで提唱されている既存の説(ChristensenのCognitiev and Organizational biases、JavonovicのLearning and Selection)に対しても考察を行なっています。

 

さらに、

政府の役割として、どのような特許政策を取っていたら結果はどうなっていたか、ということを、シミュレーションし、政策評価の観点で、Social Welfare(Consumer Surplus + Producer Surplus)を指標として考察を加えています。

 

 

<書籍と論文で記載されている範囲の違い>

 

当然書籍には、論文には記載されている数理モデルに関する詳細は省略されていますが、この点を除くと、

書籍と論文での違いとして、論文ではイノベーターのジレンマに関する既存のChristenseとJavonovicの説に対する考察がありますが、書籍には記載されていません。

それ以外については、基本的に論文に書かれていることは含まれていたように思います。

 

 

<考慮すべきIncumbentsとEntrantsの構造的違い>
Cannibalization delays incumbents’ innovation, whereas preemptive motives accelerate it, and incumbents’  cost (dis)advantage would further reinforce these tendencies.

 

3つのdriving forceについて、書籍を読んでいただいた方が早いですが、整理します。

概要は以下の記事をみていただくのが早いです。

 

参考URL : セミナーレポート > Biz/Zineセミナーレポートイェール大学准教授・伊神氏が語る、「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明とは?

 

1) 共食い:Cannibalization(ケネスアローのいうReplacement Effect:置換効果) 

既存企業にとっては、既存の製品ですでにマーケットシェアを確保しているため、同じ需要を満たす新製品を投入したところで得られる利益は小さい(もしくは、R&Dにはお金がかかるために、多少グロスのセールスが増えたところで、マイナスになることもありうる。)

一方で、新参企業にとっては、既存の売上というものが存在しないため、新製品の売上は単純に直接自社の利益増に繋がります。

このため、この構造的要因は、既存企業よりも新参企業をより積極的に動かせる要因となるはずです。

 

2) 抜け駆け:Preemption

一方で、すでに既存製品でマーケットシェアのある既存企業は、新参企業に参入されると失うものが大きいため、先制攻撃を仕掛けるインセンティブが存在します。

つまり、この構造的要因は、既存企業が新参企業よりもイノベーションに積極的になる要因となるはずです。

 

3) 能力格差:Heterogeneous Sunk Cost

既存プレイヤーについては、「企業規模が大きくなるにつれR&D効率は下がる」という構造が想定される一方で、「蓄積されたR&D資本は有利」という側面もあるため、一概にどちらが有利かはわかりません。

 

 

この研究は、イノベータのジレンマ(イノベーションにおいて既存企業が新参企業に比べて出遅れてしまうこと)に関し、上記3つの要因の影響の「向き」と「大きさ」を定量的に示そうとするもの、と言えます。

 

 

<研究の結果>

Incumbents’ rational reluctance rather than intrinsic inability caused the observed delay of their innovations

 

結論としては、

推定されたサンクコストが、Incumbents < Entrants であったということで、

つまり、イノベーションの能力は、Incumbents > Entrants であるということが言えます。

 

上記1),2),3)の3つのドライビングフォースが複合された結果として、
"共喰い" > "抜け駆け" + "能力格差(既存企業が上)" であり、これをIncumbents’ rational reluctance rather than intrinsic inability caused the observed delay of their innovations と表現されています。

 

# 興味のない方は、このパートは飛ばしてください。

# ただ、この研究が何を前提として、何を明らかにしたのか、というのを正確に理解するには以下を理解する必要がありますので、一旦飛ばした上で、もし興味があれば戻ってきて読んでいただければと思います。

 

<研究アプローチ (静学パート)>

 

まず、静学モデルとして需要と供給をモデル化しています。

 

需要のモデル化

研究では、5.25inchと3.5inchの「新旧HDDの数量と価格」、および、操作変数を用い(*1)、交差価格弾力性(新HDDの価格が1%変わると、旧HDDの需要はどの程度変わるのか)を計算しています。算出された交差価格弾力性は2.3%(つまり、新HDDの1%の価格上昇は、旧HDDの2.3%の需要減)であり、共食い効果が発生する構造が推定されています。

 

(*1) 操作変数を用いる理由は、調べようとしているHDDの数量と価格の関係は、双方向であることが想定されるためであり、操作変数として、"HDD価格とは相関がある"が、"HDD数量とは相関がない"と考えられる変数を適用して計算しています。操作変数としては、以下2つが論文で言及されています。

 1. 別の地域、ユーザーカテゴリーの価格(なぜならHDDはグローバルでの製造競争に置かれているため、生産コストは異なるマーケット間で相関があるが、ユーザーは地域で分断されているため、嗜好ショックはそうではないため)

 2. 製品の型番数(嗜好ショックは製品の型番数には相関しないと想定される)

 

供給のモデル化(ある年に得られる利益のモデル化)

ある年での企業iの利益πは、「収入 - 費用」で表現されますが、企業はこの利益を最大化しようとします。

今、各企業が利益を最大化した場合に、製品の数量と価格がどうなるかを求めたいのですが、

クールノー競争を想定(*2)すると、利益が最大化する場合には利益πを数量で偏微分したものが0になるということから、限界費用が以下で求められます。

(このパートは私の事前知識が最も不足している部分なので、説明が適切ではないかもしれません)

 

(*2) HDD市場は、製品差別化は限定的であり、同じ製品カテゴリー内で5社-10社が存在しつつも、それなりの利益を出している、という事実からベルトラン・モデルではなくクールノー・モデルを想定しています。

数量と価格の関係は、需要のモデル化で推計できているので、

これにより、各年で、企業数(N)をパラメータとしてπを表現する利潤関数が得られます。

 

 

<研究アプローチ (動学パート)>

 

上記で推定された結果を用いて、各年での企業の意思決定をシミュレーションし、

サンクコスト(Incumbents/Entrantsそれぞれ)、生産コストの3つのパラメータを推定しています。

 

本研究では、各企業の取りうる状態(State)を、既存プレイヤーと参入者でそれぞれ2種類(参入前、参入後)定義しており、各企業が各年で取りうる行動(Action)を、上記の状態ごとに以下のように定義しています。

 - 参入前:Exit(退出)、Stay(そのまま)、Innovate(参入)の3通り

 - 参入後:Exit(退出)、Stay(そのまま)の2通り

 

各企業は、各年でその時の状態(s)において、最終的に得られる報酬が最も高くなると期待される行動を選択します。

 

ベルマン方程式を用いて、「今年の決定」と、「今年以降の未来の決定」を分割して表現し、「その年に得られる報酬」+「その年以降に得られる報酬」として表現できます。

例えば、新製品参入前の既存企業であれば、今年の報酬(π_old )に加え、「その年以降に得られる報酬」は、「Exit, Stay, Innovateの3つの選択肢それぞれとった時に想定される報酬のうち最も大きなもの」というように表現されています。(Φは生産コスト、βは割引率、εはショック(後述します)です)

 

ここで、まず最初の「その年に得られる報酬(π)」というのは、まさに前述の静学パートで導出したものそのものですので、自社の状況、他社の状況、需要と供給から決まるとして、計算することが可能となります。

 

ここで、各年で、例えば参入前の企業は、{Exit,Stay,Innovate}の3つの選択肢を保持しているわけですが、

どの選択肢を選ぶべきかは、上記で記載されている通り、最も効用の大きな選択肢を選びます。

ただ、効用には生産コストなど確定している項目がメインで存在する一方で、確率的な項目も存在しており、それがεで表現されています。

このような確率的な項目(確率項)が、互いに独立で同一である(independently and identicaly distributed)ガンベル分布に従う、と仮定すると、複数の選択肢からある選択肢jを選択する確率というのは、効用の確定項の指数を比例配分したものとなります。(*3)

 

(*3)"離散選択モデル 多項ロジットモデル ガンベル分布" などで検索すると、色々と証明が出てきます。

 

上記により、それぞれの状態でそれぞれの選択肢(Exit, Stay, Innovate)を選択する確率は、

例えば、参入前の既存企業であれば、以下のように記述できます。

(Bというのは、単に3つの分子を足したものであり、確率なので、全ての選択肢の確率を足すと1になるように設定されているだけです)

 

以上により、各年にて、それぞれの状態にある企業がどの選択肢(Exit,Stay,Innovate)をどのような確率で選択するのかを表現するモデルが構築することができたことになります。

このモデルを用いて、各年の企業数、退出企業数、参入企業数が実際のデータに合う確率が最も高くなるように、Incumbents/Entrantsそれぞれのサンクコスト、および、生産コストのパラメータを推定しています。

 

 

<疑問>

 

以下の点については、議論の余地があるのではないか、と思いました。

(私の理解が不足しているだけなのか、本当に考える必要があるかどうかは、これを読んでいただいている方はぜひ疑ってください。私の専門は経済学ではありません。)

 

1) 試算の前提について

本研究では、大きく以下2点を前提として置いています。

(1) Rational expectations regarding the endogenous evolution of market structure

(2) Perfect foresight regarding the exogenous evolution of demand and production costs

 

(1)については、クリステンセンが、限定合理性がイノベータのジレンマの要因であるとしているのに対して、本研究では合理的な意思決定をしたとしても、incumbentsとentrantsではギャップがある、というのを示そうとしていますので、この前提は一旦置いておくとして、

 

(2)については、論文の中では、この設定の妥当性を以下のように主張されています。

The degree of uncertainty about demand and costs can have important implications for the amount and timing of investment, as Dixit and Pindyck (1994) pointed out. 

In the current context, however, the existence of uncertainty alone would not influence the key empirical finding on the incumbent-entrant gap. Uncertainty leads to inaction and delay of innovation, but both incumbents and entrants are operating in the same environment and hence share this uncertainty in common.Moreover, any systematic difference between incumbents and entrants (including heterogeneous beliefs and cognitive biases about the net benefit from innovation), if it exists in the data, should manifest itself as differential sunk costs of innovation in my estimation results. These cost estimates represent heterogeneous R&D efficiencies and absorb any innovation gap that is not explained by the model.

 

つまり、incumbentsにとってもentrantsにとっても、置かれた環境は同じであるので、不確実性が存在していたとしても両者にとって同じであり、両者にとって不確実性に対する応答が異なるものであったとしても、それはサンクコストの見積もりとして表現されるはずである。

ということなのですが、不確実性自体は、需要についてもコストについても時間が経つにつれて減少されるものであるため、サンクコストが時間に寄らない定数として設定されている以上、

不確実性に対する両者の応答の違いがあったとした場合に、定数としてのサンクコストには適切に反映されないのではないかという気がします。

 

経験的には、incumbentsの方がentrantsよりもリスク回避的であり、

需要についてもコストについても、不確実性は初期の方が大きいのであれば、待機オプションを行使した時に発生しうる損失(Preemptionの観点)に対し、参入した際に起こりうる損失が、相対的にincumbentsの方が大きくなり、結果的にPreemptionの効果というのが減少する方向に働くのではないでしょうか。

 

 

2) 割引率の設定について

本研究では、

割引率は企業および企業グループ(Incumbents / Entrants)に拠らない定数として設定されています。

 

ただ、割引率というのは、企業の意思決定において大きな要素であり、かつ企業ごとにその想定は異なります。

例えば、UberやAirbnbなどの両面性市場(two-sided market)であるプラットフォームビジネスについては、Amazonのように(おそらく)低い割引率により意思決定している未来志向の企業がトップシェアを占めていると、ロックインを解除することが困難である、という研究結果があります。(*4)


(*4)“Dynamic Equilibria in Markets with a Conformity Effect,” Brian Arthur, Andrzej Ruszczynski, Archives of Control Sciences, 37, 7-31, 1992

 

一方で、日本の大企業で、オーナー企業ではない企業の動きを見た時に、(短期の)株主価値を重視しておそらく高い割引率を設定した意思決定になっている企業が多く、割引率が経営の意思決定のそれなりの部分を説明できるように思います。

 

今回の研究は、1981-1998年というそれなりに長い時間軸で評価しているので、

仮に割引率がIncumbents/Entrants間で異なっている場合、もしくは、平均的には同じでもその分布度合いが異なる場合にどのような結果になるのかというのは興味があります。

 

 

3) 最後の、そして一番の疑問

一番最初の問い (Why do incumbents delay innovation?に戻って考えてみると、

ジレンマの構造としては、「Incumbentsは、抜け駆けの誘惑に駆り立てられており、イノベーション能力もかなり高いが、共喰いの影響により、Entrantsに遅れをとった」ということがモデルから示されています。

 

これをもって、本書には、"既存企業は、たとえ有能で戦略的で合理的であったとしても、新旧技術や事業間の「共喰い」がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれない"(論文では、 "... a systematic reason exists for incumbents to delay innovation, even if they are rational and do not suffer from informational or organizational disadvantages. ")というのが一つの大きな結論として示されていますが、これは計算しなくてもわかることなのではないでしょうか。

 

共喰い、抜け駆け、能力格差、これら3つのドライビングフォースを想定していた中で、もともとわかっていなかったのは、イノベーション能力はどちらが有利なのか、ということであり、研究のアプローチとしては、実際の時系列の企業数推移になるように、尤度最大、つまり最も尤もらしいパラメータを推計している訳ですから、

有能(つまり能力的にはEntrantsより上)であることを仮定すると、総計としてIncumbentsが出遅れることは、その実績に合うようにパラメータ推計しているのでそうなるのは当然なように思います。

<この研究が明らかにしたことはなんなのか>

 

改めて、研究アプローチを振り返って考えてみると、この研究が明らかにしたことは、以下の3つのように思います。

 

1) まず、静学モデルとして、

5.25inchと3.5inchのHDDの交差価格弾力性が2.3%であり、既存企業にとっては合理的に判断すると、Cannibalizationにより新参企業より本気になれない、という構造が存在することを示したこと。

 

2) 同様に、これも静学モデルとして、

クールノー競争を想定し、限界費用を算出することで、企業数Nをパラメータとする利潤関数を算出し、

既存企業にとって新参企業よりも抜け駆けのインセンティブが存在することを示したこと。

 

3) 利潤関数を元に、合理的な意思決定を前提として、かつ需要と供給に関し将来が既知であると仮定した時に、企業数の推移が実態に合うように、サンクコストを推定した結果、「既存企業のサンクコスト<新参企業のサンクコスト」である、つまり、既存企業の方が新参企業よりも高い能力を保持していた、ということを示したこと。

 

 

<自分が感じている違和感>

 

本書では、「共喰い」の要素を排除するために、新事業を別Entityでやるようなことが書かれていて、それはもちろん実際のビジネスの現場でもよくやられている有効な方策だと思うのですが、むしろ、遅れをとってしまうのは、「共喰い」と「抜け駆け」に対する企業の評価の違いがあるのではないか、というのが体感していることです。

 

「共喰い」と「抜け駆け」について、本書の中で以下のように非常にわかりやすく説明されています。

 - 共喰い:「既存企業は(新技術を導入することによって)失うものが大きいので、イノベーションに本気になれない」

 - 抜け駆け:「既存企業は(自分が新技術を導入せずに、新規参入を許してしまうことによって)失う物が大きいので、本気で独占的地位を守ろうとする」

 

本研究では前提として合理性を仮定していますが、実際の企業での意思決定において、前者(共喰い)は企業の中で合理的に判断されていますが、後者(抜け駆け)については、企業の中で合理的に判断されているとは思えません。実際に使われている稟議書や事業計画のフォーマットなどをこれまで目にしてきたものを思い出してみても、上記のような"他社の動きによって生じうる期待損失"というものを反映させることは苦手なケースが多いです。

 

これが、全て機械が意思決定するような領域、例えばマーケティングにおいて、どのターゲットにどのコンテンツを出すのか、どのマーケティング施策が効果的だったのか、というようなことは、強化学習などにより最適行動が計算されて実行されています。

 

ただ、機械が決定するのではなく、人(特に経営層)が関わる大きな意思決定となると、

比較的シンプルなオプションバリュー(待機オプションや将来の撤退オプション)を考慮することですら稀であり、ここに他社の動きも含めたゲーム的状況下での期待損失を算出する、というのは、そもそも経営層側もしくは企業の意思決定のシステムが全くついていかないケースがほとんどだと思います。

 

ですので、このような経営の意思決定の領域において、今回やられているような共食い、抜け駆けを定量的に評価して可視化すること、というのが大事であり、そのためには、本書で書かれているような構造をビジネス側の方がきちんと理解し、各種オプションバリューのようなものを評価する姿勢を持つことで、イノベーターのジレンマから抜け出せる可能性があるかもしれません。

 

上記を示すためには、

前提として、実際には、抜け駆けについては限定合理的に意思決定していたとしてモデル化をして、今回の最尤推定を実施し、そこで推計されたサンクコストなどのパラメータを用いて、合理的な意思決定モデルをシミュレーションすることで、「もし合理的に意思決定した場合」のEntrant-Incumbentsギャップを評価することができるはずです。

さらには、もう一つの前提である、"Perfect foresight regarding the exogenous evolution of demand and production costsについても、"imperfect foresight"を仮定すれば、本来は待機オプションの価値が既存企業は大きくなる可能性があるので、これがEntrant-Incumbentsギャップの要因であるということも説明できるかもしれません。

<最後に>

 

この本および論文からは本当に多くのヒントをいただいたような気がしており、アカデミックな研究に求められる厳密性、経済学的なアプローチ(特にゲーム理論周り)を習得することの必要性、適用することの意味を感じることができました。


まだ理解ができていないところもあると思いますが、この研究はきちんと時間をかけて、自分の研究にも繋げたいと思います。少し時間かかりそうですが、必ずまた続編としてまとめます。

 

本書でも触れられている、

GEのバスのエンジン取り替えの論文(Rust, J. 1987. Optimal Replacement of GMC Bus Engines: An Empirical Model of Harold Zurcher. Econometrica. 55, 5 (1987), 999–1033.) も大変参考になります。

こちらも消化します。

 

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